スポーツをしている人は足首をねんざした(くじいた)ことを1回でも経験したことがあると思います。
足首のねんざはスポーツにおける代表的なケガであり、足首の中では最も発生頻度の高いケガ1とも言われています。
そんな足首のねんざは、大半のものが時間経過とともに痛みが改善され何ら支障なくスポーツに復帰することが可能であるため、そこまで深刻にこのケガを捉える人も少ないかと思います。
しかし、理学療法士の視点から見ると軽視しすぎるのもよくない理由が何点かあります。
今回はその軽視していけない理由を3つに厳選してまとめていこうと思います!
この記事は以下の方々におすすめの内容となっています!
- ねんざをした後に走るスピードが落ちてしまった選手や保護者
- ねんざを繰り返し悩んでいる選手や保護者
- ねんざをしてからさまざまなケガをしている選手や保護者
自己紹介
10年以上整形外科の現場で多くのスポーツ選手へリハビリサポートし、サッカー現場でも多くの選手をサポートしてきた自分が見てきたケガについてリアルな部分をまとめていきます。
ねんざを甘くみないで欲しいワケ
足首のねんざとは、医学的に視点からするとケガをした瞬間の足首の挫き方のことを指し、正確な診断とは言えません。具体的に言うとねんざに伴う足首周りの靭帯損傷がその正体です。
その損傷度合いによって症状は変わりますが、大概の場合2週間程度でその痛みはなくなります。(患部の腫れは10日程度2)しかし、ねんざは長引く後遺症が存在します。こいつがかなり厄介でこの後遺症によってスポーツのパフォーマンスが低下したり、新たなケガのきっかけをつくってしまうリスクがかなり高まります。
今回は、ねんざによるさまざまな後遺症のなかでもより厄介なものを3つピックアップしていきたいと思います。
ねんざによる3つの後遺症
可動域の低下
軽度から中程度までの足関節捻挫受傷患者の自然回復の経過を観察した研究では、受傷後1ヶ月の時点での足関節の総可動域にケガをした足とそうでない足で差が生まれたと報告されています。3
足首の可動域は日常生活やスポーツ活動において非常に重要となります。
日常生活動作 | 背屈可動域(°) | 底屈可動域(°) |
歩行 | 10 | 30 |
階段上り | 5 | 15 |
階段下り | 15 | 5 |
後遺症による可動域の低下は、このような日常生活での動きを行いにくくするか無意識のうちにかばい、膝関節や股関節など他の部位への負担を強め新たなケガの原因になると考えられています。
Decreased ankle dorsiflexion in youth athletes after ACL reconstruction is associated with high-risk movement patterns during functional testing, suggesting that improving ankle dorsiflexion to >36° may be an important component of ACL rehabilitation.4
(訳:ACL再建後のユースアスリートにおける足関節背屈の低下は、ファンクショナルテスト中のハイリスクな動作パターンと関連しており、足関節背屈を36°以上に改善することがACLリハビリテーションの重要な要素である可能性を示唆している。)
アスリートにおいて競技寿命に大きく関わる膝の前十字靭帯靭帯損傷はそのリスクのひとつに足首の可動域制限が挙げられ、この機能を改善させることは大きなケガの予防にもつながると考えられますね。
また、後述する筋力低下にもこの可動域低下は大きく関わっているとされており、スポーツパフォーマンスの低下につながるとされています。
筋力の低下
可動域低下で紹介した研究5では、筋力低下についても報告しています。これによると、受傷後1ヶ月の時点で底屈筋力(ふくらはぎを中心とした筋肉)がケガをした足が反対足と比較し、低下していたと報告しています。
この筋力はつま先立ちをした際に体を支えるために働きます。この筋力は、疾走動作いわゆるダッシュ(スプリント)でも同様に姿勢を安定させるために働いていると考えられています。
ランニング動作における足首の機能とパフォーマンスの関係性を研究したものでは以下のように報告されています。
For speeds up to 7 m s–1, the ankle plantarflexors, soleus and gastrocnemius, contributed most significantly to vertical support forces and hence increases in stride length.6
(訳:7ms-1までの速度では、足関節底屈筋であるヒラメ筋と腓腹筋が垂直方向の支持力に最も大きく寄与したため、歩幅が増加した。)
上記の研究では、ランニングにおける初速時にふくらはぎの筋肉が姿勢の安定に大きく貢献し、ランニングスピードに関係する歩幅の増大につなげると報告しています。
感覚の低下
さまざまな文献において、ねんざ後にバランス能力が低下しリハビリにおいてその能力を改善させる必要がある7と報告されています。
その他の研究においても以下のように報告されています。
Chronic ankle sprains in athletes lead to deficits in foot proprioception, static and dynamic balance, potentially predisposing them to recurrent injury and instability8
(訳:アスリートにおける慢性的な足関節捻挫は、足の固有感覚受容器、静的・動的バランスの欠損につながり、潜在的に傷害の再発や不安定性の素因となる。)
靭帯を損傷してしまうことで、体の傾きなどを感知するセンサー(固有感覚受容器)の機能が低下してしまいバランス能力の低下につながると考えられています。
何度も繰り返しているケースの人ほどこのような機能が低下していることが多いため、適切なリハビリで機能を取り戻す必要があると考えます。
まとめ
今回は、甘くみられがちな足首のねんざについて見過ごせない後遺症についてまとめました。
ねんざの痛みが取れたとしても潜在的に機能が低下して競技パフォーマンスの低下や再発につながります。
適切な機能を保てているのか、適切な機能に改善しているのか競技復帰までに確認しながらリハビリを行なっていきましょう!
参考文献
- Fong DT, Hong Y, Chan LK, Yung PS, and Chan KM. :A systematic review on ankle injury and ankle sprain in sports. ↩︎
- Aiken AB, Pelland L, Brison R, Pickett W, and Brouwer B. : Short-term natural recovery of ankle sprains following discharge from emergency departments. ↩︎
- Aiken AB, Pelland L, Brison R, Pickett W, and Brouwer B. : Short-term natural recovery of ankle sprains following discharge from emergency departments. ↩︎
- Dabis, J., Ulman, S., Cooper, S., Kemper, W., Zimmerhanzel, D., Wilson, P., & Ellis, H. (2022). Relationship Between Ankle Dorsiflexion Mobility and Functional Return to Sport Test Performance in Athletes Who Have Undergone ACL Reconstruction. Orthopaedic Journal of Sports Medicine, ↩︎
- Aiken AB, Pelland L, Brison R, Pickett W, and Brouwer B. : Short-term natural recovery of ankle sprains following discharge from emergency departments. ↩︎
- Dorn TW, Schache AG, Pandy MG. Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performance. ↩︎
- Wikstrom EA, Naik S, Lodha N, and Cauraugh JH. :Bilateral balance impairments after lateral ankle trauma : a systematic review and meta-analysis. ↩︎
- Alghadir AH, Iqbal ZA, Iqbal A, Ahmed H, Ramteke SU. Effect of Chronic Ankle Sprain on Pain, Range of Motion, Proprioception, and Balance among Athletes. Int J Environ Res Public Health. ↩︎