サッカー選手と股関節の痛み(鼡径周辺部痛)は切っても切れない関係ぐらい、発症する確率の高い(競技特異的な)ケガのひとつでもあります。
過去には有名なサッカー選手たちもこの股関節痛に悩まされ、プレーができない時期やパフォーマンスが落ちてしまうようなことも多くあります。
ひと言で股関節痛といっても具体的にはさまざまな症状・病態の総称です。そのため、それぞれの病状に応じた対応が求められます。
今回の記事では、股関節痛の中でも内転筋(太ももの内側)に関連したものに対して行いたいリハビリ・ケアについてまとめていきたいと思います。サッカー選手はこの内転筋に関連した痛みを訴えるケースが非常に多いので、このような股関節痛に悩む選手や保護者の皆さんにはぜひご覧いただきたいと思います。
また、こちらの記事もあわせて読んでいただきその特徴を理解した上で今回の記事を読み進めると理解しやすいかと思います。
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- 慢性的な股関節痛に悩むサッカー選手・保護者
- 休んでもプレーをすると痛みが戻ってしまうサッカー選手・保護者
- 股関節痛の予防・ケア方法を知りたいサッカー選手・保護者
目次
自己紹介
10年以上整形外科の現場で多くのスポーツ選手へリハビリサポートし、サッカー現場でも多くの選手をサポートしてきた自分が見てきたケガについてリアルな部分をまとめていきます。
アスリートの股関節痛「鼡径周辺部痛」とは?
冒頭に紹介した記事でもまとめていますが、鼡径周辺部痛は以下のように定義されています。
何らかの理由で生じた全身的機能不全が鼠径周辺部の気質的疾患発生に関与し、運動時に鼠径周辺部にさまざまな痛みを起こす症候群1
噛み砕いて表現すると「股関節のみならず全身の柔軟性や筋力の低下があると動作(例えばキック動作など)において負担が股関節に集中した結果、さまざまな股関節痛につながってしまう」ということです。
患部(股関節)へのリハビリを集中して行うことで、痛みの改善を図ることも十分可能です。しかし、その原因に対しても介入しないと痛みが再発してしまうことがほとんどです。
先ほど紹介した定義でも触れられていますが、何かしらの理由で生じた全身の柔軟性・筋力の低下が股関節への負担を集中させていると考えられています。リハビリにおいてもこのような考え方で対応しなければ、根本的な改善とは至らず復帰しては痛くなり、また復帰しては痛くなりを繰り返し完全復帰まで長期化してしまいます。
また、鼡径周辺部痛はさまざまな痛みを引き起こすと定義されています。これもまた長期化する原因のひとつです。
一言で股関節痛といえど、その中身は骨由来の痛み(炎症)や筋肉・靭帯由来の痛み(炎症)はたまた関節の変形による可動域の問題による症状など多岐に渡り、それぞれ対応の仕方も異なります。
具体的にどの部位に炎症などのダメージが発生して痛みにつながっているかを明確にして、それぞれの原因に対してリハビリをしていかないとなかなか復帰にはつながりません。
股関節痛へのセルフケア
前述したように鼡径周辺部痛に対するケアの第一歩は、その病態を明確にすることです。以下の記事でも紹介した確認方法で痛みが出現する場合は、必ず医療機関へ受診し、MRI検査など精密検査を受けるようにしましょう。
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内転筋関連の股関節痛を見分ける方法
内転筋関連の股関節痛は、内転筋に力を入れた際に痛みが生じるかどうかが特徴的な症状の一つです。以下に紹介するテストを行い痛みがある場合は、前述したように医療機関での精密検査を受けるようにしましょう。
内転筋Squeezeテスト
- 両足を立てて仰向けになる(股関節が45°になるようにする)
- 検査者の手もしくは柔らかいボールなどをひざにあてがう
- 手もしくはボールを押しつぶすように内転筋に力を入れる
- 痛みの有無や力の入り方の左右差を確認する
内転筋関連の股関節痛は内転筋自体の筋力低下も発症リスクのひとつとして挙げられているため、痛みだけでなく筋力の左右差も確認しておくといいでしょう!
内転筋への負担を強める原因を追求する
ケア・リハビリをする前に「なぜ内転筋に痛みが出てしまったのか」を考え、その原因を捉える必要があります。
普段のリハビリで内転筋の痛みに悩む選手にはある共通項があります。それが、普段の姿勢です。
姿勢にはさまざまな種類があるとされていますが、中でも内転筋への負荷が高まる姿勢はsway backと呼ばれる猫背のような姿勢です。
この姿勢は背中が丸まるだけでなく骨盤も後方へ傾いている姿勢で、このような形で体を支えると内転筋への負荷が高まるとされています。
骨盤・体幹ともに後傾位とした片脚立位では、大腿直筋や縫工筋・長内転筋に筋活動の増大を認めた2
骨盤・体幹の後傾とは上の写真のようにお尻の穴が下に向き、下半身よりも上半身が後方に位置している状態を指します!
そのため、リハビリにおいては内転筋の状態をケアしながらも負荷をかけてしまうこのような不良姿勢を改善させる必要があります。
内転筋関連の痛み改善を目的としたケア
内転筋自体の耐久性を高めるにはCopenhagen Adduction Exerciseとよばれるトレーニングがおすすめです!
こちらの記事では科学的根拠も交えて方法論をご紹介していますので興味ある方は是非ご覧ください!
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また、股関節周りの可動性も内転筋の痛みを改善させる上で重要な要素となるので、それらに対する介入もこちらの記事を参考に行ってみましょう!
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股関節機能に着目して姿勢を整える
sway back姿勢とよばれる不良姿勢では、お尻や太もも裏の筋肉が硬くなり筋力も低下しやすいと言われています。
また、それによって骨盤は後ろへ過度に傾いている状態となるため、元に戻した(前へ傾いた)状態で姿勢を支えられるよう必要な筋力を鍛えていく必要があると考えます。
sway back姿勢を整えるには太もも裏やお尻の筋肉をほぐして力を入れやすい状態を整えた上で、トレーニングすることが重要となります!
ハムストリング(太もも裏)ストレッチ
- 伸ばしたい足を前に出して片膝立ちの姿勢をとる
- 両手を床につけて前足に体重をのせてお尻を持ち上げる
- 背中が丸まらないよう注意しながら太もも裏をストレッチする
殿筋群(お尻)ストレッチ
- 伸ばしたい足を前にして4の字のように膝を横に倒す
- 重心は左右真ん中に留めておきながら足を前後に開く
- 両肘を床につけるように上体を前に屈める
- お尻から太もも外側がストレッチされていればok
股関節の可動性は背骨の動きも改善させることで最大限の可動性を引き出すことが可能となります!
股関節の三次元的な動きに対応して骨盤を追従させるには脊柱(背骨)にも三次元的な動きが要求される。3
脊柱ストレッチ
- 横向きになり上側の足をへその前まで曲げる
- 下の手は上側の膝を抑え、上の手は後頭部にあてがう
- 鳩尾から動かし最大限に胸を開く
※肩甲骨を内側に寄せる意識で行うとより開ます
ここまで行い、骨盤が前傾できる可動性を引き出していきましょう。ここが出来次第、お尻の筋力で骨盤を正しい位置に支えられるようにトレーニングしていく必要があります。
外旋筋群トレーニング
- 鍛えたい足を上にして膝をへその前まで曲げて横向きで寝る
- かかとを支店にしてひざを最大限上に広げる
※お尻から腰が後方へねじれないよう注意しましょう! - お尻周りに力が入っているようであればok
股関節の中でも小さな筋肉のため、最初は力を入れることが慣れずに無理な動きでお尻以外のところへ負荷がかかってしまうかもしれません。最初は少ない回数でもいいのでしっかりとお尻に力が入っていることを確認しながらトレーニングしていきましょう!
split 脊柱回旋トレーニング
- 鍛えたい足を前にして反対側の手で足首を掴む
※バランスが取れなければ床についてもok(つく位置は肩の真下あたり) - 前足側の手は後頭部に当てがい上半身を大きくひねる
※お尻が前足よりも外側へ移動したり下へ下がらないように注意しながらひねりましょう - 上体を最大限ひねった際にお尻から太もも裏・太もも内側に力が入っている感覚であればok
先ほどのトレーニングがバランスの問題でうまくできない場合はこのように後ろ膝を床につけて支えやすい姿勢で行ってみましょう!
(手順・意識するポイントは先ほどと同じです!)
太もも裏や内側、お尻周りの筋力で支える感覚を養えたら実際に動かしながらも姿勢を整えられるようにトレーニングしていきましょう!
デッドリフトトレーニング
- お尻と片方の足を壁につけて軸足のスネを床に対して垂直になるまで膝を前に出す
- お尻を支点にして上体一直線に保ちながら前傾させる
(この際に膝が前後左右へぶれないように注意する) - 前傾した際にお尻・太もも裏に張り感があればok
まとめ
今回はサッカー選手に多い内転筋由来のグローインペインについて、根本的な部分から治すためのリハビリ・ケア方法についてまとめていきました。
グローインペインは安静にしてても内転筋自体の耐久性を上げなければ再発しやすいです。
耐久性を上げるためにも、日頃から受けるストレス(負担)を減らさなければならず、そのためには姿勢を整えるところから始まることもあります。
今回紹介したSway back姿勢と呼ばれる崩れは大多数の方がなっている姿勢でもあるので、ストレッチやトレーニングを日頃から行い、内転筋にかかる姿勢を修正できるようにしましょう!
参考文献