サッカー選手に多い股関節痛。中でも内転筋(太ももの内側)の炎症などが原因で発症する割合が多いとされています。
以前にまとめた記事では、普段の姿勢が問題となり内転筋の機能低下による股関節痛についてご紹介しました。
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【保存版】サッカー選手の股関節(内転筋)痛改善はココがポイント!-前編-
サッカー選手と股関節の痛み(鼡径周辺部痛グローインペイン)は切っても切れない関係ぐらい、発症する確率の高い(競技特異的な)ケガのひとつでもあります。 過去には有名なサッカー選手たちもこの股関節痛に悩ま ...
このように普段の何気ない姿勢が原因で内転筋の機能低下を引き起こし、キック動作などでうける負荷に耐えられず痛みに発症するケースも多いです。
また、普段の姿勢の問題が改善されてもさまざまなスポーツ動作において内転筋への負荷が高まり痛みにつながるケースも多々見受けられます。
今回の記事では、安静時の痛みなどは改善してきたもののスポーツ動作になると痛みが強くなってしまうようなケースについてその原因などをまとめながら必要なケア方法についてご紹介します!
- 慢性的な股関節痛に悩まされている選手・保護者
- 高い強度での運動で股関節痛が出現してしまう選手・保護者
- 股関節痛の予防目的でトレーニングを行いたいと考えている選手・保護者
目次
自己紹介
10年以上整形外科の現場で多くのスポーツ選手へリハビリサポートし、サッカー現場でも多くの選手をサポートしてきた自分が見てきたケガについてリアルな部分をまとめていきます。
内転筋由来の股関節痛の原因
内転筋由来の股関節痛につながる原因は大きく分けて以下のように考えられています。
キック動作における負担
インサイドキックでは、ボールスピードに対する要求が高まるにつれて内転筋へのストレスが強まり、グローインペイン 発生のリスクがより高まることが推察されている1
インサイドキックの軸脚側では(中略)並進方向によるボールへの運動エネルギー伝達が制限されることにより効率的にボールを蹴り出す動作ができなくなることで、その結果、蹴り脚側への動作に影響を与えていると考えられる。2
特にインサイドキックにおける内転筋への負荷は蹴り足・軸足それぞれから影響を受けていると言われており、股関節痛の中でも高い割合で痛めると考えられています。
ランニングフォームの崩れによる負担
キック動作以外での内転筋に対するストレスの増大は、ランニング動作時の姿勢の崩れも関係していると考えられています。
動作時の姿勢の崩れの代表例はトレンデレンブルグ肢位と呼ばれる姿勢です。
過度な内股のような姿勢のことを指す言葉ですが、この姿勢が内転筋に及ぼす影響は次のように言われています。
トレンデレンブルグ肢位がみられると外転筋群により骨盤の支持ができなくなり、股関節内転筋群により骨盤を支持するため内転筋群へ過負荷を与えることになる。3
片脚スクワット時にトレンデレンブルグ肢位がみられると、内転筋群が過活動していることも報告されている4
ランニング時にみられるトレンデレンブルグ肢位には、内転筋群の過活動の結果、鼠径部へのストレスを増大させている可能性が考えられる。5
キック動作やランニング動作など片脚で体を支える姿勢が崩れてしまうと、内転筋周囲へのストレスが増大してしまい痛みにつながることが多いです
ただ、厄介なのはこの姿勢の崩れを自覚することが難しいこと。なので、気がついたら痛みが出てくるようなことになってしまうことが多いです。
キックフォームの崩れ
サッカーにおけるボール飛距離などに関係するキックフォーム(特に軸足の使い方)も内転筋にかかる負荷は大きいものとされています。
グローインペイン群では (中略)接地した足部に対しグローインペインではない群と比較して体幹が後方にあることが推測される6
軸足を踏み込んだ時に状態がのけぞるような姿勢になってしまうとそれを支えるために内転筋の活動が過度に高まってしまいます。それが原因で内転筋由来の痛みにつながると推測されます。(のけぞる姿勢と内転筋の活動については冒頭で紹介した記事を参考にしてください!)
さらに、ボール飛距離と軸足の使い方(踏み込み方)にはある特徴があると報告した研究もあります。
姿勢を維持するには遠心力に拮抗する軸足の外方向への力が必要となる。今回の研究では熟練者において、軸足踏み込み時の床反力左右成分が外方向に有意に増加した。(中略)遠心力に対する拮抗力として外方向への床反力を発生させ、姿勢を維持していると考える。7
ボール飛距離を伸ばすには、蹴り足のスイングスピードが求められます。それを実現するには大きな遠心力を活用する必要があり、身体にはその遠心力に耐えられるような安定性が求められます。
そのためには、軸足を地面に対して斜め外に差し込みながら踏み込むことが重要であると上記の研究では報告しています。
軸足を斜めに差し込むと、股関節と骨盤のまわりはトレンデレンブルグ肢位と同じような姿勢になってしまいます。そのため、内転筋への負荷が高まる可能性があります。
この姿勢自体を修正するというよりは、繰り返しこの姿勢になっても内転筋へのストレスに耐えられるような状態にしておくことがベストではないかと考えています!
動作時の内転筋負担軽減を目的としたトレーニング集
グローインペインの原因は可動域制限ではなく、股関節周囲の筋力低下や全身のマルアライメント(姿勢の崩れ)であった。8
内転筋由来の股関節痛の改善には、単なる可動域の改善だけでなくさまざまな姿勢を保つために必要な股関節周囲の筋力を鍛えていくことが重要となります。
内転筋への負荷が少ない姿勢を維持するには?
骨盤が下に落ち込まないようにするためには、軸足のお尻の中でも外側につく筋肉(中殿筋)と反対側の背骨脇につく筋肉(腰方形筋)が同時に働くことが重要となります。
中殿筋が働くことで太ももの骨が骨盤に対して上ずることを抑え、腰方形筋が働くことで骨盤が落ち込むことを抑えられるようになり、効率的に骨盤を水平に保つことができ、内転筋への負担軽減につなげると考えられています。
トレンデレンブルグ肢位の改善・予防=中殿筋の強化と考えることが多いですが、腰方形筋の機能低下が原因のことも多いのでそれぞれを協調的に使いこなせるようトレーニングしていくことが重要です!
中殿筋トレーニング
さまざまな選手のリハビリをしていると日頃から中殿筋とは違う筋肉(大腿筋膜張筋)で誤った姿勢をとっているのでこの中殿筋は力が入りにくい印象が強いです。
そのため、いきなり腰方形筋と強調したやり方でトレーニングをしても狙った効果を得られにくい可能性があります。そのため、まずは適切に中殿筋が使えるようトレーニングをしていく必要があります。
中(小)殿筋トレーニング1
- 鍛えたい足を上にして横向きになる
- 足全体を肩の高さまで持ち上げ、キープする
- ひざの高さを維持したままかかとを持ち上げるように股関節を内側へひねる
- お尻の脇を中心に力が入っている感覚であればok
中殿筋トレーニング2
- 横座りの姿勢となり鍛えたい足を後ろへ引く
- 上半身を一直線に保ちながら後ろ足全体を持ち上げる
- ひざやかかとが床につかないようにしながら足を前方へ運ぶ
- 上半身を一直線に保ちながらスタートポジションまで足を後方へひく
- お尻の脇を中心に力が入っている感覚であればok
腰方形筋トレーニング
また、腰方形筋もなかなか収縮感覚をつかめない選手も少なからずいるので、適切に収縮ができるようトレーニングしていきましょう!
腰方形筋トレーニング
- 両ひざ立ちの姿勢となり上半身を一直線に保ちながら両手を壁につける
- 壁側の足を一歩前へ振り出す
(両手は壁から離さないように注意) - 前へ振り出す際は脇腹から動かす意識で行うと腰方形筋に力が入りやすいです
協調トレーニング
中殿筋および腰方形筋それぞれ単独の力が入りやすくなってきたら、腰方形筋との協調的な働きができるようにトレーニングしていきましょう。
動作中はどちらにも収縮感があるか確認しながらトレーニングしていきましょう!
膝立ちの姿勢でのトレーニングで協調的な収縮が感じられるようになったら、立ったまま行ってみましょう!より実践的な体の使い方をトレーニングすることができます!
ヒップロックトレーニング1
- 両ひざ立ちの姿勢で両手を壁につける
- 脇腹から足を持ち上げる意識で片方の足を横から持ち上げて前へ振り出す
(インサイドキックの足の形を作るイメージで行うとやりやすいです!) - 軸足の肩からひざまでが一直線上にある姿勢を保持しながら足を動かしましょう
(お尻だけ横方向へぶれないように注意) - 軸足のお尻脇と反対側の脇腹に力が入っている感覚であればok
ヒップロックトレーニング2
- 壁の脇に立ち片脚をイスや台に乗せる
- 軸足は体よりも外側に置き反対側の手と体重を支える
- 脇腹に力を入れる意識でイスや台から足を持ち上げる
(持ち上げた際にお尻が軸足側に流れないように注意しましょう) - 壁側の脇腹・軸足のお尻脇に力が入っている感覚であればok
どちらのトレーニングも軸足のお尻脇と反対側の脇腹に力が入っている感触であればokです!
まとめ
今回は、動作中の内転筋への過負荷を防ぐためのトレーニングについてまとめていきました。
内転筋への負荷が増大する理由の一つにトレンデレンブルグ肢位と呼ばれる姿勢の崩れが挙げられます。
この問題を解決するには、軸足の中殿筋だけでなく反対側の腰方形筋も強調して機能することが重要となり、そのためのトレーニングが求められます。
今回紹介したものを参考にして内転筋への負担を少なくした姿勢を取れるようにしましょう!
参考文献
- 川本竜史:競技特性とスポーツ障害の予防 サッカーと恥骨結合炎.臨床スポーツ医学 24(12): 1255-1261, 2007. ↩︎
- 村上 憲治:サッカー選手の鼠径部周囲の疼痛発症メカニズムの検証 ↩︎
- 工藤慎太郎:変形性股関節症,運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学,医学書院,東京,112-119,2012. ↩︎
- Clark, M. A., Lucett, S. C., Sutton, B.:Corrective Strategies for Lumbo-Pelvic-Hip Complex Impairments, NASM essentials of corrective exercise training. Lippincott Williams & Wilkins. Burlington, 309-337, 2013. ↩︎
- 江波戸 智希:股関節・鼠径部痛の既往者におけるランニング動作の特徴,日本アスレティックトレーニング学会誌 第 7 巻 第 1 号 75-84(2021) ↩︎
- 村上 憲治:サッカー選手の鼠径部周囲の疼痛発症メカニズムの検証, ↩︎
- 奥秋 拓未:三次元動作分析装置を用いたサッカーの熟練者と非熟練者のインフロントキック動作の相違,第49回日本理学療法学術大会 抄録集 ↩︎
- Jarosz, B et al.: Individualized multi-model management of osteitis pubis in an Australian Rules footballer. J Chiroper Med 10(2): 105-110, 2011.
Malliaras, P et al. : Hip flexibility and strength measures: reliability and association with athletic groin pain. Br J Sports Med 43(10): 739-744, 2009.
Hölmich, P et al.: Effectiveness of active physical training as treatment for long-standing adductorrelated groin pain in athletes : randomised trial. Lancet 353(9151): 439-443, 1999. ↩︎