成長痛として誤った認識で放置されることのおおいオスグッド(正式名:Osgood-Schlatter病)。
比較的に予後が良好であるからそのような対応にされやすいですが、それでは改善されないことも多々あります。
脛骨粗面に剥離骨片が形成され、疼痛が増悪した場合では長期の運動制限が必要となる1
脛骨粗面と呼ばれるひざに一番近いスネの部分は、身体の成長とともに徐々に骨のように硬くなっていきます。
軟骨のようにまだまだ柔らかい時期に過度な負担がかかり続けることで、脛骨粗面の一部が剥がれ、痛みにつながると考えられています。
痛みが出現してから早い段階から適切な治療を選択することで、競技復帰までの時間(運動を休止する期間)を短縮させることが可能となります。
自痛みが改善しても原因が改善されていないと競技復帰をした際に症状が再発して再度スポーツを休まなくてはならないこともあります。根本的な原因から改善できるような治療・トレーニングをしていくことで再発を予防しながら競技復帰することができるようになります!
この記事では、オスグッドの痛みに悩まされずに競技復帰するために必要なトレーニングについてまとめていきたいと思います!
こんな人におすすめ!
- オスグッドと診断されたが何をしたらいいかわからない選手・保護者
- 競技復帰をしたら痛みが再発してしまい悩んでいる選手・保護者
- これから成長期を迎え、オスグッドを予防したいと考えている選手・保護者など
目次
自己紹介
10年以上整形外科の現場で多くのスポーツ選手へリハビリサポートし、サッカー現場でも多くの選手をサポートしてきた自分が見てきたケガについてリアルな部分をまとめていきます。
オスグッドにつながる特徴
1.オスグッドにつながるストレスの原因
オスグッドは大腿四頭筋(太もも前)による脛骨粗面への牽引ストレスが原因で発症すると言われています。
大腿四頭筋の柔軟性が低下することによってオスグッドにつながると考えられていますが、この柔軟性低下は大きく分けてふたつの要因がそれぞれ絡んでいるとされています。
このように身体の成長による問題も大きく関わるため、日頃から大腿四頭筋へのストレッチも欠かすことはできませんが、姿勢の崩れによっても起こるケガなため、適切な姿勢を保てるよう必要な機能に対してもケアをしていかなければなりません。
2.オスグッドにつながる姿勢の崩れとその原因
オスグッドにつながる特徴的な姿勢の崩れは、動作中における身体重心の後方化とされています。
サッカーにおけるキック動作にて、上半身を被せることができずうわずってしまっている状態のことを指します!
この姿勢もさまざまな身体機能の低下が絡んでいることが多いです。
キック動作では、踏み込み時の過度な骨盤後傾や下腿前傾不足などの動作的特徴、ハムストリングスや足関節背屈柔軟性低下、股関節伸展筋機能不全などの身体的要因を有する選手ではキック動作中に後方重心を引き起こすことが示されている6
上記のように身体機能の問題で、上体を被せることができずに脛骨粗面へ過度な負担が集中してしまっているケースも多くいます。技術的な練習以外にも技術を支える身体機能を整えていくことが重要です。
オスグッドに対するトレーニング
オスグッドに対する治療で重要なことは、患部へのケアに加えて患部への負担を減らすための動作を獲得することが求められます。
1.大腿四頭筋へのケア
オスグッドの直接的な原因となる大腿四頭筋の柔軟性低下は、運動量による問題だけでなく身体の成長も大きな因子とされているため、ここへのストレッチなどは日頃から積極的に取り組んでおきたいものです。
オスグッドの症状が出た直後は大腿四頭筋へのストレッチによって症状が増悪する可能性もあるため、このストレッチは症状に応じて行うようにしましょう。
大腿四頭筋ストレッチ
- 伸ばしたい足を下にして横になる
- 上の足をへその前まで曲げ、下側のひざを曲げる
- 上側の手でつま先を持ち可能な限りひざを曲げて大腿四頭筋を伸ばす
- つま先をお尻に近づけるように動かしながら上半身をひねるように動かすとより伸ばすことが可能となります!
2.動作獲得のためのトレーニング
重心を前方へ乗せるためにはある程度の股関節可動性が求められます。
そのために必要なトレーニングの一例をこちらの記事でもまとめていますので、あわせて読んでもらえると嬉しいです。
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ひざの前面が痛かったらこのトレーニングを!おすすめ股関節トレーニング3選!
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ここでは、重心を前方へ乗せて支えられるようにするためのトレーニングについてご紹介したいと思います。
重心を前方へ移動させて支えられるようになるためには、主に股関節周りの筋力が求められます。
体重がグッとかかった際にこれらの筋肉が反応することで、股関節からひざを固定することができ慣性の力で重心を軸足の上まで簡単に乗せることができます。
電車が急停車すると乗っている人たちは進行方向へ体があおられてしまうことがあると思いますが、慣性の力はまさにこの現象のことを指しています。
お尻周りの筋力で急ブレーキをかけ、重心を前方へ押し出す。オスグッドの痛みに悩む人のほとんどはこの使い方ができていないことが多いです。
お尻まわりの筋力を鍛え、固定力をたかめるためのトレーニングをいかにまとめていきます。
クラムシェルトレーニング
- 鍛えたい足を上にしておへその前までひざを曲げる
- お尻・おへそが後ろに傾かないようにしながら足を最大限にひろげる
- お尻全体に力が入っている感覚であればok
ヒップリフト
- 鍛えたい足のひざを立てお尻よりも外に足をつく
- 反対足は軽く持ち上げたところを維持してお尻を持ち上げる
- 持ち上げた際にガニ股を意識してひざが内側に入らないよう注意する
- お尻から太もも裏・内側に力が入っている感覚であればok
デットリフトトレーニング1
- 足は二足分ほど前に広げ壁にお尻をつけて立つ
- ひざは足首の真上に位置させて固定する
- お尻と軸足で支えながらお辞儀していく
- お尻から太もも裏・内側に力が入っていればok
デッドリフトトレーニング2
- 段差などに上り足半分を外に出して片足立ちする
(両手は壁につけて安定させる) - かかとを少し高い位置に保ちひざから下を固定する
- おしりを後方へ引く意識でおじぎをする
- お尻から太もも裏・内側に力が入っていればok
このトレーニングはデッドリフト1よりも負荷が強くなりますが、足首の安定感も求められるためランニング動作に近い形でのトレーニングとなります!復帰が近づいてきたら必ず取り組みたいものです!
まとめ
今回は、学生アスリートに多いオスグッドの痛みに対するトレーニングついてご紹介しました。
痛みが出た場合、運動量のコントロールによる痛みの改善も重要ですが、それに並行して姿勢や動作の質を整え患部への過負荷を軽減させることも重要です。
そのためには、お尻周りの筋力を鍛え直し、さまざまな動作において前方への重心移動がスムーズに行えるようにしていく必要があります。
今回の記事では重心移動がスムーズに行えるよう求められる筋力に対するトレーニングをまとめています。
オスグッドの痛みに限らずひざの痛みに悩むすべての選手の参考になればと思います!
参考文献
- Hirano A, Fukubayashi T, Ishii T, Ochiai N. : Magneticresonance imaging of Osgood-Schlatter disease: the course of the disease. Skeletal Radiol, 31 (6) : 334-342, 2002. ↩︎
- 戸島美智生:Osgood-Schlatter 病発症者と非発症者との間で骨長増加に対する筋タイトネス変化が異なる.日本臨床スポーツ医学会誌,19(3):473-479,2011. ↩︎
- 平野 篤, 福林 徹, 石井朝夫:脛骨粗面の発育とオスグッド病の発症について, 日本臨床スポーツ医学会誌, 8:180-184, 2000 ↩︎
- 佐保美和子, 石井慎一郎:成長期のダイナミックアライメントとスポーツ障害, 東京保健科学学会誌, 1: 223-225, 1999. ↩︎
- 鈴木英一,齋藤知行,森下 信:【Osgood-Schlatter 病の診断と治療】Osgood-Schlatter 病の成因と治療・予防 身体特性と成長過程の観点から.臨床スポーツ医学,23(9):1035-1043,2006. ↩︎
- )河村真史,高橋佐江子,玉置龍也,鈴川仁人,赤池 敦,清水邦明,中嶋寛之:脛骨粗面の発育段階における超音波所見と臨床所見との関係.日本臨床スポーツ医学会誌,17(4):S119,2009 ↩︎